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子ども虐待とは

虐待という言葉について

日本では「child abuse-チャイルド・アビューズ-子ども虐待」と使っています。しかし、子育てに苦悩し、解決策が見つからず、わが子に手を挙げてしまうような保護者のことを考えると、「虐待」はきつい感じを受ける言葉です。チャイルド・アビューズは、子どもの濫用と訳すことができ、「虐待」とせずにもっと柔らかな表現にできなかったのかと疑問に思うところです。
専門家たちの間では「不適切な関わり-maltreatment-マルトリートメント」という言葉を使うのがいいのでは、という考え方もあります。虐待よりも広義で、家族外からの不適切な関わりも含む言葉とされています。しかし現状では、なかなかよい言葉が見つかりません。
心配されるのは、「虐待」という言葉を使うことにより、一生懸命に育児してきた日頃の努力を、すべて否定されたと保護者が感じてしまうかもしれないことです。迷っていること、困っていることについて「ひとつひとつを一緒に解決していきましょう」という気持ちで、周囲の人たちは接することが大切だと思います。
しかしケースによっては、あなたがしていることは子どもへの虐待なのだ、と伝えることが気づきにつながることがあります。そして、子どもへの行為が沈静化することもあります。
児童相談所や保健師さんなどに専門的に相談に乗ってもらうこと、子ども虐待防止の電話相談に電話して話を聞いてもらうことなど、保護者自身も、地域の方々も、抱え込まずに誰かに相談するようにしましょう。

子ども虐待とは? 手紙から知る子ども虐待

身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト、四種類の子ども虐待は、それぞれ単独で発生することもありますが、以下の事例からも読みとれるように、暴力と暴言や脅し、性的暴行と暴力や脅し、などが、複雑に絡まりあって起こる場合もあります。

「身体的虐待」とは?

身体的虐待は、保護者が子どもに、殴る、蹴る、水風呂や熱湯の風呂に沈める、カッターなどで切る、アイロンを押しつける、首を絞める、やけどをさせる、ベランダに逆さづりにする、異物を飲み込ませる、厳冬期などに戸外に閉め出す、などの暴行をすることを指します。子どもは、打撲や骨折、頭部の外傷、火傷、切り傷などを負い、死に至ることもあります。
身体的虐待は、周囲から分かりやすく、顕在化しやすいのですが、注意が必要なのは、洋服の下の見えない部分にだけ暴行を加えるタイプもあることです。着替えや診察の資格を有する方は、少しでも様子がおかしいと感じたら、目で確認できる顔や腕、足にけがをしていなくても、洋服の下を見てください。

事例1

私が虐待されだしたのは、5歳のとき、妹が生まれた頃だった。母は「あぁ、結婚するんじゃなかった。子どもなんか産むんじゃなかった」と私に言い続けた。私が少しでもごはんをこぼしたら、濡れた床ふき用のぞうきんで私を殴った。水に濡れたぞうきんは重く、ムチのように殴られたとき痛い。私が泣くと「なんで泣くの、ウルサイ」そう言って今度は私の髪をつかんでゆさぶった。私は泣き声を殺し、母の暴力に耐えた。

事例2

私は物心ついた頃から高校生の頃まで父親からひどい虐待を受けていました。髪をつかんで部屋中ひきずりまわされたり、バスルームで足首をつかんでバスタブに逆さずりにつけられたり、とひどいものでした。しかし、顔面はれあがり、体中アザだらけになって学校に行っても周囲の人は誰も気にとめてくれませんでした。母親さえも、私のことをかばってくれませんでした。

事例3

息子の2歳の反抗期頃から我の強さ、わがままに耐えきれず、ぶったり、けったりが始まって、かわいいときとにくらしいときがものすごいギャップのある生活でした。私自身がパニックになって息子をビンタしたりしているときは止められない状態になり、殺してしまうのではないかと思っていました。子どもと対立して、子どもを負かすために殴っていたと思います。

「性的虐待」

性的虐待には、子どもへの性交や、性的な行為の強要・教唆、子どもに性器や性交を見せる、などが上げられます。性的虐待は、本人が告白するか、家族が気づかないとなかなか顕在化しません。実父や義父などから「お母さんに話したら殺すぞ」などと暴力や脅しで口止めをされているケースも少なくありませんし、開始年齢が早いと子どもは性的虐待だと理解できないこともあります。私たちは、性的虐待なんて起こるはずがない、と思いがちですが、実際に乳幼児時期から発生していますので、注意を払ってください。性的虐待は、実母や義母などの女性から男の子どもに対しても起こります。

事例1

私は、4歳か5歳のときに保育園のおじさんに、小学校5年生の冬には伯父にいたずらをされたことがありました。小学校6年生になると、それまで私に冷たかった義父がやさしくなり、私は父に気に入られようと一生懸命にイイ子になろうと努力しました。母は夜働いており、義父は風呂場で体に触り、性的な行為をさせました。

事例2

母は感情が高ぶると姉と私をたたいたりけったりしました。小学生になると、父が姉と私に性的ないたずらをするようになりました。私たち姉妹は、口止めされ、母に言えずにいました。5年ほど続いた後、母の知るところとなりましたが、いまも両親は夫婦でいます。

事例3

幼稚園くらいまで、父と一緒に寝ていましたが、明け方になるといつも私の体をなでまわしていました。小学生になり、やっとひとりの布団で寝ることができるようになった頃、両親からの暴力が始まりました。それに弟も加わり、学校ではいじめられ、居場所がなく、近所の公園で木や草に話しかけ、野良猫と遊ぶときがいちばん安らげるときでした。

「心理的虐待」

心理的虐待は、大声や脅しなどで恐怖に陥れる、無視や拒否的な態度をとる、著しくきょうだい間差別をする、自尊心を傷つける言葉を繰り返し使って傷つける、子どもがドメスティック・バイオレンスを目撃する、などを指します。子どもの心を死なせてしまうような虐待、と理解すると良いと思います。

事例1

5歳と2歳の女の子の母親(31歳)です。上の子に「あんたなんか死ね」「嫌われ者」「大キライ」など、毎日何回も言っています。一日のうちで急に悲しくなったり、子どもを叱ってみたり、たたいたり、殴ったりもします。体じゅうの血液が逆流するように人格も自分でも別人のようになっていると思います

事例2

わたしは25歳です。ずっと、3歳になる娘になぜこんなにも冷たくできるのかと、時折考えていました。娘はおとなしく、親の手をわずらわせることなく、私も普通の親だと思っていました。でも娘が1歳になり、2歳になり、私の小さい頃とだぶって見えてくるようになると、私が小さい頃、私の母に「お前なんか生まれなければよかった」「死んでしまえ」と言葉の暴力を受けていたことを思いだしたのです。娘にも同じような事をしていたのです。

「ネグレクト」

ネグレクトは、保護の怠慢、養育の放棄・拒否などと訳されています。保護者が、子どもを家に残して外出する、食事を与えない、衣服を着替えさせない、登校禁止にして家に閉じこめる、無視して子どもの情緒的な欲求に応えない、遺棄するなどを指し、育児知識が不足していてミルクの量が不適切だったり、パチンコに熱中して子どもを自動車内に放置する、なども入ります。乳幼児や年齢の低い子どもに起こりやすく、安全や健康への配慮が著しく欠けたために、子どもが死に至るケースもあります。病気なのに病院に連れて行かない、医療ネグレクトも存在します。

事例1

夫に借金があるのがわかり、息子が6ヶ月になった頃から、泣き声が耳につき、だんだんうるさくなりました。息子はいい子なのに、私はミルクをあげるのがおっくうで、お腹がすいて泣くのを放っておくのです。息子は泣き疲れ、指をしゃぶりながら眠ってしまいます。申し訳なさに涙が出るのですが、また、同じ事をしてしまう二重人格の私がいました。

事例2

ふたりの子どもがいますが、上の子を、うまく愛せませんでした。下の子と同じように可愛がることも、抱き寄せてやさしくしてあげることもできません。側にこられただけでイヤな気分になったりすることもあります。いまのままでは上の子どもは精神的な面で将来大きな傷になりそうです。どういう風に育児をしていいのか全然けんとうもつきません。※事例は、手紙集「被虐待児からのメッセージ 凍りついた瞳が見つめるもの」椎名篤子編(集英社)より

虐待としつけの違い

「児童虐待の防止等に関する法律」により、子ども虐待の定義は、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待となりました。しかしこの定義が明らかになっても、なお、子ども虐待とはなんぞや、と考えさせられる場面があります。それは、虐待としつけの違いについてです。
虐待としつけ。この二者間には、しっかりと線引きできないグレイゾーンが存在します。が、多数の事例に関わってきた福祉、保健関係者や精神科医、小児科医などが言うように「子どもが耐え難い苦痛を感じることであれば、それは虐待である」と考えるべきだと思います。

保護者が子どものためだと考えていても、過剰な教育や厳しいしつけによって子どもの心や体の発達が阻害されるほどであれば、あくまで子どもの側に立って判断し、虐待と捉えるべきでしょう。

多くのケースでは、保護者が子育てに苦労されている現実がありますから、その気持ちを大事に考えることも大切です。