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2018.06.20お知らせ
提言 ―結愛ちゃん事件を受けて―
私たち「児童虐待防止全国ネットワーク」は、今回の結愛ちゃんの死は、決して防げない死ではなかったものと捉えています。結愛ちゃんが私たちに教えてくれた、子ども虐待防止の課題をしっかりと受け止め、今後、このような事件が二度と起きないよう、私たちは子ども虐待防止の取組みの充実に向けて次のことを提言します。
1.虐待相談として関与した親子が転居した場合、転出元の児童相談所、市区町村は、当該親子の虐待状況と対応経過に関する情報を速やかかつ詳細に転出先の児童相談所等に提供すること。
【理由】
本件は転居事例であり、転出元児童相談所が本件の事実関係及びリスク評価を適切に転出先児童相談所に情報提供できていなかった可能性がある。とくに一時保護解除事例であることから、虐待再発の可能性があることを念頭に置いてアセスメントし、情報提供をする必要があった。しかし転出先児童相談所が事例の緊急性、リスクを適切に判断できず、訪問調査等が十分に行われなかった可能性があることから、まずは適切かつ十分な情報提供を速やかに行い、必要な支援を引き継ぐことが必要である。
2.転出元の児童相談所が、当該親子に関する一時保護を解除した場合であっても、転居により家族内のストレスが高まることから、転出先の児童相談所等に対しては継続的な支援が必要な家庭として情報を提供すること。
【理由】
孤立した育児を行っていた家庭が転居した場合、さらに子育てが孤立する可能性があること、就労の確保等が行われていない場合には家庭内のストレス要因になること等から、親子分離をした経過のある家庭が転居した場合は、継続的な支援を引き継ぐべき家庭として情報を提供し、対応することが必要である。
3.転出先の児童相談所等は、情報の引継ぎを受けた家族を「要保護家庭」として受理し、「目視・現認」を確実に行うとともに、要保護児童対策地域協議会の個別ケース検討会議を開催して、関係機関と情報を共有すること。
また、児童福祉司、児童虐待対応担当職員等が、「目視・現認」をすることができなかった場合、関係機関との協議をもとに次回以降の調査計画を立て、関係機関と協力して「目視・現認」を行うこと。
【理由】
虐待の恐れがある家庭が転居することで養育上のストレスが高まる可能性があるところから、転入後は速やかに安全確認を実施して、その情報を基にアセスメントをし、地域の関係機関とその情報を共有し、連携した対応を行うことが必要である。
4.子ども虐待の具体例について周知徹底を図ると共に、子どもの年齢や発達等を無視した勉学の強要や過度のしつけは不適切な養育に当たる場合があることを、広く社会に啓発すること。あわせて、体罰禁止を法律で明文化すること。
【理由】
子どもの年齢、発達等の状態を無視した学習の強要やしつけなどの保護者の一方的な押し付けは、子どもにとって利益にならないばかりか、その心身に大きなマイナスの影響を及ぼすものであることを、広く社会に啓発する必要がある。また、体罰を用いた養育は不適切な養育の典型であって、許されないことを法に規定し、社会に向けて広く、継続して周知することが必要である。
5.警察や裁判所と共同して介入的対応をする虐待対応専門機関を設置するとともに、児童相談所、市区町村の対応力の質的・量的拡充を図る等、子ども虐待相談対応システムの抜本的な改革をすること。また、そのために、必要な調査等を行うこと。
【理由】
家庭等からの相談を受けて親子を支援することが本来的な任務である児童相談所や市区町村に、虐待事例における介入的な対応を担わせていることに大きな矛盾がある。虐待相談の安全確認、一時保護、法的対応等の介入的な対応には、児童相談所や市区町村以外の専門機関が警察や裁判所と協働して対応する仕組みが必要である。なお、虐待相談対応を強化するためには、困難を抱えた親子がより相談しやすい環境を作るとともに、児童相談所や市区町村の対応職員を大幅に増員し、その対応力を向上することが必要であり、さらなる予算の拡充が不可欠である。
2018年6月20日
認定NPO法人 児童虐待防止全国ネットワーク
理事長 吉田恒雄