<2019年11月1日、内閣総理大臣との意見交換時に表明>
子ども虐待のない社会を目指して ―私たちが考える子ども虐待防止策―
昨年から今年にかけて重大な虐待事件が相次ぎ、これを受けて政府として、児童福祉法等の改正をはじめ、実効性ある施策を迅速に打ち出していただいたことに心より感謝申し上げます。子どもが一人の人間として、虐待を受けることなく、明るく楽しい日々を過ごせるよう、以下の取組みにより、「子ども虐待のない社会」が実現するよう求めます。
○ SOSを出せない子どもとおとなに目を向けよう!
虐待を受けている子どもには、自分が受けていることが虐待であることを知らせ、虐待から身を守る方法を学べるようにする施策(子どものための虐防止プログラムの実施や虐待通告ダイヤル189の周知)をさらに推進してください。
体罰など不適切な養育をしているかもしれないと悩んでいる親を追い詰めることなく、親が通告ダイヤル189などを使って、安心してSOSを出せるようにするとともに、行政や社会がこれを丁寧に受け止め、その後の支援を受け入れやすくする方策を講じてください。
○ 私たち一人ひとりができることをして、「子ども虐待のない社会」を目指そう!
子ども虐待防止のためには、行政や専門家だけに頼ることなく、暖かい眼差しによって子どもと子育て中の親を見守るなど、「市民一人ひとりができること」をして子ども虐待のない社会を作ることが重要です。「子どもと子育てにやさしい社会が子ども虐待のない社会につながる」ことを目標に、オレンジリボン運動を国民運動として広めるよう、お願い申し上げます。
以上
<声明文>
児童福祉法の改正と残された課題
―5年後の体罰禁止の法定化に向けて―
2016年5月27日、児童福祉法等の改正法が参議院本会議で成立しました。今回の改正の目的は、すべての子どもが健全に育成されるよう、児童虐待について発生予防から自立支援まで一連の対策の強化を図ることにあります。改正法には、児童福祉法の理念の明確化、母子健康包括支援センタ―の全国展開、市町村及び児童相談所の体制強化、里親委託の推進を図ること等が盛り込まれています。増加する児童虐待通告件数、虐待を原因とする死亡等の重大事例の発生といった状況が続く一方で、児童相談所や市区町村は十分な体制整備がないまま、対応に追われているのが実情です。これらの状況を克服するため、改正法は、虐待の予防から虐待親や虐待された子どもへの支援や介入、児童福祉施設や里親といった社会的養護の充実に向けた児童虐待防止に関わる一連の施策を総合的に整備する内容となっています。とくに児童福祉の理念として、「子どもの権利擁護」が明示されたことは大きな意義をもっています。わが国の児童福祉法に、1994年に批准した国連子ども(児童)の権利条約の趣旨に即した理念が掲げられたことは、児童福祉のみならず、教育や少年司法等、子ども施策全般を推進する上で重要な役割を果たすものと期待されます。
他方で、残された課題も少なくありません。改正法の附則では、検討事項として1.特別養子制度の利用促進 2.要保護児童の適切な保護のための裁判所の関与のあり方 3.児童相談所業務や通告制度のあり方 4.子どもや妊産婦の福祉の業務に従事する者の資質の向上等があげられました。また、参議院の厚生労働委員会では、1.子どもの権利擁護に関する第三者機関の設置を含めた実効的措置 2.体罰によらない子育ての啓発や懲戒権行使のあり方 3.関係機関の連携強化の推進等について付帯決議がなされました。
とくに2.の懲戒権の検討は重要です。わが国は、これまで国連の子どもの権利委員会から3度にわたり体罰の明示的禁止が勧告されています。それにもかかわらず、体罰の禁止を具体的に明示する懲戒権規定の改正は行われてきませんでした。虐待報道では、虐待した親が「しつけ」のつもりで行った暴力等により、結果的に子どもの死に至ってしまった例が多数見受けられます。虐待する親の正当理由として「懲戒権」が使われ、体罰が正当化される現状を変革するために、体罰禁止を含む懲戒権規定へと改正することはわが国に課せられた重大な責任であります。
懲戒権規定のもつこれらの問題性から、私たち「児童虐待防止全国ネットワーク」は、NPO法人「子どもすこやかサポートネット」や公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の皆様とともに、塩崎厚生労働大臣に懲戒権規定の見直しを求め、国会議員の方々にも同様の要請を行ってきました。今回の改正では、親は子どものしつけに際して「必要な範囲を超えて」子どもを懲戒してはならないとの表現にとどまり、残念ながら体罰禁止の法定化は実現しませんでした。しかし、参議院の委員会で付帯決議として懲戒権の検討が盛り込まれたのは大きな成果です。改正法の附則では、改正法施行後5年を目途として検討を加え、必要な措置を講ずることとされています。
私たち児童虐待防止全国ネットワークは、関係する団体の皆様とともに、5 年後の見直しに向けて、児童虐待防止のための施策全体の改善はもちろん、体罰禁止の法定化に向けて、今後、体罰のもつ危険性を広く社会にアピールするとともに、暴力や恐怖によらない子育ての方法をさらに普及するよう活動を行うこととします。どうか皆様におかれましては、「子ども虐待のない社会」を目指して、これまで以上に幣団体の活動にご理解とご協力を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
2016年6月5日
認定NPO法人
児童虐待防止全国ネットワーク
理事長 吉田 恒雄
子どもの虐待死を悼み命を讃える市民集会
参加者一同
2010年 子ども虐待防止のためのアピール
今年に入り、重大な子ども虐待事件が相次いで報道され、子ども虐待はますます深刻な事態を迎えています。今年は2000年に児童虐待防止法が成立してから10年目という記念すべき年であるにもかかわらず、子ども虐待をめぐる状況はいっこうに改善の兆しを見せていません。
この10年間、たしかに児童虐待防止法や児童福祉法が改正され、虐待家庭への介入が強化され、市区町村による対応体制も法定化されました。民法の改正作業も進み、親権制度の見直しも行われています。
しかし、子ども虐待の防止に取り組む児童相談所や市区町村においては、急増し困難化する子ども虐待相談に十分対応できるだけの体制整備が進んでいません。虐待された子どもの受け皿となるべき里親や児童養護施設等の社会的養護体制についても、最低基準の抜本的改善は遅々として進まず、むしろ地域主権の名の下に後退さえしかねない状況です。
子どもたちが生活する地域でも、家庭の孤立化が進み、相互扶助による子育ても思うに任せない状況になっています。親が子育てに希望と喜びを見出せないような社会では、子どもたちが自己肯定感をもってのびのびと育つのも難しくなります。
私たちは、児童虐待防止法成立10年を期に、子ども虐待の問題に国や社会がいまこそ本気で取り組むことこそが、子どもたちの明るい未来を作り、私たちの幸せにつながると信じ、つぎの提案を致します。
アピール項目
以上